出逢い  〜第三章〜初めての二人


05

「どこへ行こうか」
私は精一杯背伸びをして話しかける。
しかし、いきり起ったままのモノがズボンの中で突っ張るのを隠すように少し前かがみなのは滑稽だ。
「うふっ・・いいところ・・・」
年上の余裕なのか、麗子は茶目っ気たっぷりに答える。
その笑顔を見て私は
『うん、とりあえず髪好きの変態だとはバレてないみたいだな』
と、一安心した。

”少年の頃の私には「フェチシズム」という概念はまだ無い。
単純に髪の毛、特に光を反射するようなツヤツヤな茶色いサラサラのストレートの長い髪の毛が好きで、まさしく、出逢ったばかりの妻の髪はほとんど理想といって良い。
しかし、その頃の私は、普通の男の人は女性のオッパイやお尻、そして生殖器とかで欲情するものだと思っていた。
もちろん、私もそういったところを見ても今でもそれなりに欲情する。
しかし、子供の頃から髪に対するそれはより強く、女の子を見る時にも一番最初に髪に目がいってしまっていた。
だから、そんな自分は変態なんじゃないかと漠然とした不安に苛(さいな)まれてもいた。
今では、「フェチシズム」も理解して、堂々と「麗子の髪の毛フェチ」で「麗子フェチ」と言えるが、その頃の私は、妻から突然髪を握らされた時に自分の変態なところがバレてしまったかと焦ってしまったのだ。”

「行きましょう」
麗子は私の手を取って歩き出した。
歩き出すと自然に腕を組んできて私の半歩後ろを歩く、傍目には私がリードしているように見える。
でも、そこは年上の麗子がイニシアチブを取っているのを周りに気付かせないように自然に振舞ってくれているのだ。
「いったいどこに行くのさ?」
皆が振り返るほどの美少女と腕を組んで歩く優越感に浸りながらも、私は本当はこれからどうするか?どこへ行く(連れて行かれる?)のか全くわからない不安がある。
「な・い・しょ・・・うふふ・・」
あくまで明るく答え、しばし恋人気分で歩いている。
と、急に立ち止まり
「そういえばまだ年を聞いてなかったわよね?」
『いやっ、だからもう年はいいじゃん、どうせ年下だってわかって馬鹿にされて終わるよ』
私はごまかすように
「そんな昔のことは忘れたな・・・」
と、どこかで聞いたような台詞を吐く。
「もう・・ふざけないで・・・」
麗子は怒ったような、悲しいような、なんともいえない表情で私を見つめる。
「ごめん・・ただもう気付いてると思うけど・・俺、年下だから・・嫌われちゃうと思ってさ・・・」
やっと本音を出した私は単純に年下だから嫌われると思っていたのだ。
「ばかっ・・・」
小声で呟く、でも怒ってるというよりは呆れてるといった感じの言い方だ。
結局そのまま無言で私と腕を組んで自らが引っ張るように歩き出した。
私はちょっと圧倒されるような感じで黙って付いていく。
「ここで待ってて」
何も言わずに連れてこられた超高級ホテルのロビーのソファに座らされ、有無を言わさない口調だ。
「はい・・・」
なんとなく怒ってるなと思うと元気も出てこない。
しかも、生まれて初めてこんな豪華なところへ来た。
ホテルといったら家族旅行で行った温泉ホテルぐらいしか知らない私は高級ホテルの持つ独特の排他的な威圧感にすっかり大人しくなってしまった。
「お待たせ・・行きましょう」
にっこりと微笑むがなんとなく顔がこわばってる、
『あーぁ、怒ってるよ・・俺の初恋も終わっちゃったな・・・』
私は泣き出したい気持ちを堪えて努めて明るく
「OK!・・レッツゴー」
と言った。
その言葉に麗子は軽く微笑むが目は笑ってない感じがする
「ばかっ・・・」
麗子は聞こえないほど小声でもう一度呟いた。

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