出逢い  〜第一章〜駅の美少女


01

「麗子お嬢様、申し訳ございません」
運転手は本当にすまなそうに深々と頭を下げた。
都内の有名お嬢様学校へ通う為に神戸より上京し東京都下の叔母夫婦の家に住んでいた〇〇麗子が、いつものように朝の身支度を終えて階下に下りてくるといきなり冒頭のシーンだ。
「どうしたの?」
麗子は明るく問いかける。
「実は、お車の調子が…」
言いかけると麗子はその言葉をさえぎるように
「えっ、大丈夫よ、気になさらないで、電車で登校すればいいのだから」
麗子は返す。
そのやり取りを聞いていた叔母はあわてて「麗子ちゃん、そんな電車でなんて…」と不安そうに呟く。
「大丈夫よ叔母様、私一度電車通学ってしてみたかったの」
神戸の貿易商の令嬢である麗子は普段は送迎の車で通学している、そもそも麗子が通う学校ではその方が普通でむしろ電車通学の方が珍しいのだ。
当然、麗子も生まれてから17年間、実家の神戸の小、中学校はもちろんのこと、高校生になった今でも一度も電車通学などしたことも無かった。

「じゃあ行ってきます」
同じく都下に住む私は開校記念日の休みに親戚の家へ遊びに行くため出かけようとしていた。
「気をつけるのよ」
母親に見送られ駅へと向っていった
麗子は高校3年の17歳、私が中学1年12歳の春のことだ。

「こんなに混んでるんだぁ」
麗子は呟く。
初めての電車通学なのだから駅の雑踏、満員電車、全てが当然初めてである。
「どうしよう、やっぱりタクシーの方が・・・・ううん、何事も経験、経験」
お嬢様育ちでも好奇心旺盛で生来の前向きな性格の麗子は電車で通学する決意を固めた。
しかし、いざ乗ろうとしても、タイミングが合わないのか、満員電車に乗り込む勇気が出てこなかった。
麗子は今まで男の人と間近で接する機会がほとんど無く、知らない男性と身体が触れ合う満員電車などまるで違う世界の乗り物のように感じる。
でも、よく見ていると何本かに一本、比較的空いている各駅停車という電車が来るのに気付いた。
「よし、次に来る各駅停車に乗ってみよう」
やっとコツが飲み込めてきたみたいで混んでる電車を見送るためホームの後方に下がった。
同じ頃、私もホームに到着した。
こちらの方は朝、父親から「各駅停車っていうのが混んでないから」と言われていたので、それを待つためにホームをぶらっと歩いている。
ふと、ホームの後方に所在無さげに佇む女子高生が目に入った、麗子である。
私には少し困ったように落ち着かない感じに見えた。
中学生になったばかりの私は知らなかったが、この私鉄沿線では有名な紺のブレザー、白ブラウス、水色のリボン、薄茶色のチェックのスカートの制服。
良家のお嬢様しか入学できないので、躾が行き届いてる生徒ばかりのため校則は厳しくなく、髪型も規則がないので、生まれつき自然な茶色い髪の前髪は大きな瞳にかかる程度の長さで、肩甲骨の真ん中程度で切り揃えられた後の髪は結んでなく下ろしている。
その立ち姿は、朝のラッシュ時にはまるで似合わなく、おっとりとして優雅なたたずまいは嫌でも目立ってしまう。
しかも、整った顔立ちに透き通るように白い肌、スタイルも抜群で女子高生とは思えないほど主張する大きな胸、くびれたウエスト、長い足。
そして、朝日を受けてキラキラと輝く美しい栗色の髪。
私はこの世のものとは思えないほどの美しいオーラを放つ麗子に視線が釘付けになり
「すごい綺麗だ」
思わず呟いてしまう。
そこへ、電車が来た、ホームに入ってくる風圧で背中まで伸ばした麗子の髪がサラサラと舞う。
私はあまりに麗しいその姿に視線を離す事が出来ずにジッと見つめてしまっている。
麗子はその視線に気付き私に向けてにっこりと微笑む。
超お嬢様学校の麗子は一般の高校の生徒とも交流が無く、同じレベルの金持ち学校との交流に限られる。
街に出ても制服でそれと知られているため近寄ってくる人もいない。
そんなお嬢様学校の生徒が駅にいること自体珍しく、好奇の目で遠巻きに誰もチラチラとは見るが普通に見てくれる人などいない。
今日も美しい女子高生が困った顔をしているのに誰一人、駅員すら声を掛けられないのもそのためだったのだろう。
麗子は、明らかに私の視線を感じ、次の瞬間ホッとした表情を見せる。
後で聞いてみると、皆が珍しそうにチラチラ見るのが居心地が悪かったのに、
「Jeyだけがじっと見つめていてくれていた」
そのことで救われた思いがしたそうだ。
中学生になって1学期も終わっていない私は、電車に乗ることなどめったに無く、そんなお嬢様学校の制服だとは知らずに見つめている。
朝の駅の混雑にあまりにも不似合いな美少女に目を離す事が出来ずにいるのだ。
麗子は
「自分と同じ年くらいで自分を普通に見てくれる人がいる」
嬉しさに自然と心が沸き立ったと後で教えてくれた。
中学1年でも比較的早熟で背も高い私は一見すると高校生ぐらいに見える。
麗子も私を
「同じ年くらいだと思っていた」
ようで、それ故に親近感からにっこりと微笑んでくれる。
私も、どぎまぎしながら、ぎこちない笑顔を麗子に返した。

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